チョコ食べさせてみた

backnext

 ぼり、ぼり、ぼり。
 ソファで並びあった隣から、口いっぱいに頬張ったあまい塊をかみ砕く音が聞こえる。
 ハーデスは手元の本に視線を落としながら、豪快な咀嚼音が静かになっていくのを確認し、そろそろか、と手の中に小さな丸いかたまりを創造した。
「ん」という声を合図に、塊をいくつも宙に放り投げる。甘味はきれいな放射線を描いて、隣の彼の口内へおさまった。
 ぼり、ぼり、ぼり。
 物質的な素材をもちいず、魔力と概念だけで創造された食糧は、創造者——ハーデスのエーテルの塊といえる。彼をちらりと横目に映すと、彼のエーテルが自分の色とまざり、溶け合い、体内に浸透していくのが視えた。ハーデスの視線にじっとりとした熱がともる。
「ん、」口の中のものを飲みこんだ彼が、おかわりをねだった。
 ハーデスはあらたに創造した塊を手に逡巡すると、それを自分の口に放り込んだ。
「あっ」不満げな声が上がったが、無視して塊をかみ砕く。思ったよりも苦味のある概念が口の中にひろがった。向けられた貪欲なまなざしを笑ってやると、吊り上がった唇ごと喰われる。ハーデスは本を置いてさしこまれた舌に応えた。唾液ととともに互いのエーテルが交わる。甘いものも悪くない。


backnext