浮気ごっこ

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「だから……“はじめて”っていうのが悪いんだよ」
 ヒュトロダエウスのツボにはいってしまい、セックスどころではなくなった為、彼らはベッドに座って向き合っていた。前提条件の見直しが必要だ。まじめな顔で告げたが、ふたりとも股間のものはおっ立てたままだった。
「ううん……それじゃあ、ハーデスとは付き合っているけどセックスはしたことない、というのはどうかな」
「ヒュトロがそれで笑わないなら、もうなんでもいいよ僕は……」
「今度は大丈夫。フフッ、いや、これは思い出し笑いだよ」
 じとっとした目で見てくる彼を、ヒュトロダエウスは優しく押し倒した。
「今日も、抵抗しないのかい?」
 首筋を唇でなぞりあげながら問いかける。浅い呼吸を繰りかえすだけの彼に、返事をうながすよう耳たぶを甘く食むと、ん……と艶めいた吐息とともに彼の手がやんわりと肩を押し返そうとした。抵抗というよりは、しがみついたと言ったほうが正しいほどのやわらかな力だった。
「ハーデスがいるのに、ワタシと毎日シているなんて……いけない子だね。そんなに欲求不満かい?」
 ひゅっと息をのむ気配がした。その真実味を帯びた反応に、ヒュトロダエウスは本物の微笑みをこぼして、彼の上にまたがった。
「すこし乾いてしまったから、濡らしてくれるかい」
 先端をぐにぐにと頬に押しつけると、彼はそれっぽい演技を心がけているのか、ずいぶんとひかえめな仕草でそれを舐めた。
「やり方……教えただろう。ちゃんと咥えて。ん……そうそう……上手だよ。きっとハーデスも喜んでくれる」
 ——ああでも、キミがワタシのを舐めて、咥えて、飲んだって事実は、これからキミがなんど彼に抱かれても消えないんだよねえ。
 うっとりと演じながらささやけば、溺れるような視線が返ってきて、初心者はそんな目をしないよ、とヒュトロダエウスは心のなかでつぶやいた。


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