communism

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 アーモロート居住区。はるかなる高みの塔の一室、閉められたカーテンの向こうから、朝の日差しがさしこんでいた。
 特別おおきく創造されたベッドの上では、この部屋の主であるハーデスと、彼の親友であるヒュトロダエウスと、彼らに挟まるようにして寝ている男が、真ん中でかたまって窮屈に眠っていた。
 あたたかな光の筋が顔にかかった男が、ううん、と身じろぐ。とはいえ限られたスペースでは少し寝返りをうつくらいが精一杯で、その上、両側から抱きしめられているものだから、結局のところ彼は目の前の胸元に顔をうずめて、日差しから逃れることを選んだ。その背後から彼を抱いているヒュトロダエウスが、うっすらと片目をひらく。
「……ん」
 腹部あたりを抱えこんでいた手が意思をもって、さわ、と脇腹をなぞった。布越しにほんの触れるか触れないかくらいの力がそおっと登っていく。男がこそばゆさにもじもじと脇をしめて抵抗すると、尾てい骨のあたりに硬いものが押しつけられて、尻の間が反射的にきゅっと締まった。昨夜も一晩中それに愛されていたことを身体は覚えている。まだ淡く色づいたままの窄まりが熱を持ち始めていた。
 今日は休日で、その日の前は、朝方近くまで盛り上がってしまうのが三人のお約束だった(とはいえハーデスは途中で寝ていたが)。まだ半覚半睡状態の彼は、ヒュトロダエウスの愛撫に寝ぼけながら無意識に腰をハーデスに擦りつけはじめた。するとそちらも朝の生理現象でしっかりと勃ち上がっており、昨夜受け入れたふたつのものに挟まれている形となった。腰をくねらせることでヒュトロダエウスのものも刺激されて、もっとと請うように尻のあわいを先端が突く。
「ぁ……」とちいさな声がもれた。ヒュトロダエウスの指先が、ぴんと立った胸の粒をかすめたのだ。だが指はそこを外してまわりをくるくると撫でまわした。意識だけさせられて焦らされるもどかしさに、ふー、ふー、と熱い吐息が、ハーデスの胸元を湿らせた。背後のヒュトロダエウスも、快感をじっくりと高められている彼の首筋に顔をうずめ、ちゅうと吸いついた。ハーデスのものと密着した性器がひくひくっと痙攣する。
「ヒュトロ、……」
「んー……?」
 胸元をまさぐっていないほうの手が、脇腹の下にすっと差しこまれる。男はごく自然に身体をうかせてそれを手伝った。フフ、と小さな笑いが耳元に吹き込まれる。
 ヒュトロダエウスの指先が、かりっと胸の先端をかいた。
「ぁっ……!」
 じんとした快感のしびれが走って、たまらず太腿をこすりあわせると、そこに僅かばかり挟まれたヒュトロダエウスのものが、存在を誇示するようにぴくぴくと動いた。眠気に侵されていた脳に、悦楽の靄がかかりはじめる。彼はまたしても焦らすように何本もの指の腹でそこ以外をさわさわと撫でている。身をよじって当てようとしても、指は器用に粒を避けつづけた。
「見てごらん」
 過敏になった身体はそんなささやき声さえも、脳髄をかけめぐる電流となった。ハーデスの心臓の上に額をこすりつけながら、言われるがまま自分の胸元を見やると、ヒュトロダエウスの指でぴんとはった黒い布地ごしに、ふたつの粒が硬度を主張していた。白く長い指先が見せつけるように浮いて、先端に触れないぎりぎりのところでひっかく真似をした。男はそれだけでまるで刺激を与えられた気持ちになって、ひっ、と息をのんだが、つぎの瞬間にはあまりのもどかしさに、彼のなめらかな手をつかんでいた。
「……触ってほしい?」
 こくこくと頷いた男に「どうやって?」とヒュトロダエウスは続けた。重なりあった掌は主導権を男にゆだねていた。整えられた爪先の上からそっと力をこめると、それより先は抵抗はなく、突起がぐにと押しつぶされた。
「——……ッ!」
 男は快感にふるえた。胸元をのぞきこんでいた顔をもう一度、目の前のひっそりと鍛えられた胸筋に押しつけた。ハーデスはゆっくりと深く呼吸していて今も熟睡しているようだった。淫靡さのかけらもない清涼な彼に抱かれながら、どうしようもなく欲情している自分に恥ずかしくなるが、それでも手は止まらなかった。ヒュトロダエウスの指先をあやつり、弾力ある粒をくにくにといじくると、自分で触れているのか触れられているのか曖昧な感覚に、脳からじゅわりと快楽物質が溢れてくるようであった。
 夢中になって単調な刺激を繰りかえしていると、耳元でヒュトロダエウスがささやいた。
「こうやっていじられるのが好きなのかい?」
「……っ、ぁ……ぁっ……」
 同じ動きをしているだけだというのに、その快感はわけがちがった。操り手を離れたからだけではない、触れかたが違うのだ。彼の指づかいは繊細で力の加減が絶妙だった。乳頭はつぶれないようにこねられて、さらに力を弱めては、布越しのさわさわとした摩擦を与える。そうしているかと思えば、寝かせていた指を立たせ、爪の先でやわらかく先端をかきまわす。
 たった二本の指先からもたらされる快感に翻弄され、男の身体がぴくぴくと痙攣する。性器はもはや痛いほどに張りつめて、ローブに淫らなしみを作っていた。声をおさえようと食んだハーデスの胸元にもやがて同じように唾液がしみこんだ。彼のとろけきったエーテルをみるヒュトロダエウスの目が細まった。
(いれたいなあ……)
 尻のあわいに逸物をぐりぐりと突きいれながら、目の前の真っ赤になった耳の裏をなめる。すると腕の中のいきものは、ひ、と呼吸をひきつらせた。指から逃れようと身体をおりまげれば、尻臀のはざまに強く押しつけられ、逸物から逃れようとすれば、胸をかすめるような刺激に襲われる。彼にとっては八方塞がりな状況だった。ヒュトロダエウスは愉しげな笑みをうかべながら、そんな彼を前へ前へとにじりよせていった。その先は完全に寝入っているハーデスの壁だ。
 ほとんどふたりの間に押しつぶされかけた彼は、「んー、んー」と顔を埋められてくぐもった声をあげた。ヒュトロダエウスは気にもしなかった。
「ハーデス」
 目と鼻の先まで近づいた親友に声をかける。
「んん」と眉間をよせ寝言らしき声をもらしたハーデスが起きる気配はなかった。
(もったいないなあ。だけど無理に起こすのもかわいそうだからね)
 ヒュトロダエウスは延々とくすぐり続けていた指先の動きを変えた。
「んっ……ふ、う……っ!」
 いじくり回されてビンビンになった乳首をつままれて、ヒュトロダエウスの手首にすがりつくようにして止めようとするも、無意味な抵抗だった。弾力をたしかめるようにぐにぐにと潰したあと、布地の上から滑らせるようにして、小刻みにしごく。まるでそれに見立てるかのような動きだった。あらぬ感覚が下肢からもわきでてくるようで、彼の腰は知らず知らずのうちに激しく揺れていた。ローブの中でぬるぬるとすべるそれを必死にハーデスのものに擦りつける。イきそうでイけないもどかしさに「ヒュトロ、」とくぐもった声が嘆願する。
「フフ……こっちもしてほしいのかな」
 
 ヒュトロダエウスの片手が胸元からはなれ、ローブ越しにぬるついた性器をやわくにぎった。
「あ、っ、あっ……」
 手筒のなかで自慰をするように、かくかくと腰が動いた。しかし握りしめる力はほんのわずかで絶頂に登りつめるまではいたらない。たまらず自らの手を伸ばせば、ヒュトロダエウスの手はあっけなく離れて、彼の手首を拘束した。
「自分で触ったらもったいないよ。わかってるだろう?」
 ——ワタシにシてもらうほうが、きもちいいこと。
「ぁ、」ともれた声は断末魔のようなものだった。穏やかにささやかれた言葉は、催眠術さながらに彼の脳を支配した。脊髄をぞくりとかけめぐり、肌があわだち、熱が末端神経をも侵していく。
 ヒュトロダエウスは抵抗していた手がくったりと弛緩して垂れさがるのを確認すると、ハーデスのローブを握らせた。
 そして彼の裾をたくしあげると、なめらかな素肌があらわになった。下着は身につけていない。彼らにとってはいつものことだった。ここにいるときはどうせ脱いでいる時間のほうが長いのだ。
 べとべとになった性器に直接ふれると、ビグッと跳ねて粘液をまきちらした。人差し指で、根元から裏筋をなぞりあげるようにすると、何度も跳ねては向かいのものをノックするので、実に愉しいものだっだ。次から次へとあふれてくる蜜が、眠れるハーデスを汚しながら、糸を引いて結ばれている。
「このまま出すと、ハーデスにかけてしまうね……いいのかい?」
 性器をつまんでぐりぐりとそこに押しつける。まるでハーデスがお漏らししてしまったかのような、恥ずかしいシミが滲んでいく。無抵抗で快感を享受していた彼の恋人は、ヒュトロダエウスの言葉に焦ったように身体をひくつかせた。
「でも出したくて仕方がないんだよねえ?」と輪になった指が包皮をまきこみながら、雁首を引っ掛けるように往復する。脇の下からさしこまれた腕は、かわらず胸の粒をひっかいてはこねて、つまんでは潰していた。彼はこみあげる射精感を必死でこらえた。ほとんど身じろぎができない状態ながら、腰をよじって逃れようとするも、ヒュトロダエウスの指技がそれを許すはずもなく、シコシコとしごく動きはますます早くなった。尿道口はいやらしく開閉しながら、布越しのものにちゅうちゅうと吸いついている。
「や……やめ、……い、い……っ」
 いく、と足の先がぴんと伸びる。
 だがその前にヒュトロダエウスは手を離していた。急速に引いていく絶頂感に、彼は「あ、あ」と目を見開きながら口をぱくぱくとさせた。
「ふぅ……、う……、なん、で……」
「“やめ”てほしかったんじゃないのかい?」
「出したい、……出させ……っ」
「へえ。……彼は起きたらびっくりするだろうね? 眠っているうちにキミの精液でべっとり汚されているんだから……それでも出したいなら、仕方ないなあ……」
 ヒュトロダエウスの指がぬちゅぬちゅと音をたて、ふたたび性器をしごきはじめる。今度は掌全体をつかって、しぼりつくすような動きだった。快感を高めるというよりは出すための、作業的な自慰にも似た、容赦のない手つきだった。
「あっ、あっ……て、の中に、出させ、あっ……」
「ワタシの手の中に? ハーデスはだめなのにワタシはいいのかい?」
「ひっ、……」
 もちろん証拠隠滅などヒュトロダエウスは許す気もなかった。男には選択の余地がない選択肢しか与えられていないのだ。それは、このままイくことを許されないままハーデスが起きるまで耐えるか、たまった精液を存分にだしてハーデスを汚すかだ。
 彼は自分の情欲のつよさをすこし恥じているから、なにも知らずに眠っている恋人を、その親友の手できもちよくなった証で汚すことに、たまらなく罪悪感を覚えるはずだった。そして罪悪感は快楽を増幅させるのだ。
「ワタシはこうやってすると気持ちいいんだけれど……キミはどう?」
「あっ……⁉︎ あっ……あぁっ……!」
 それは彼にとって強すぎる刺激だった。根元から亀頭までを大きな掌が握りこみ、激しく上下にしごきあげ、ひねるような動きを加えながら、ときおり親指が尿道口をつぶすようにした。わけもわからないまま睾丸がきゅうと持ち上がり、強制的にのぼりつめさせられる。でる、でる、と脳信号がちかちかと明滅した。
「あまり好きじゃないかな?」
 またしても唐突に快楽は遠ざけられた。
「うぅ、あ」となんとも言いがたい声でうめきながら男はむなしくへこへこと腰を空振った。
「……いぃ……出したいぃ……」
「じゃあ……汚してしまってもいいんだね」
 男はもうなんでもいいとばかりにうなずいた。ヒュトロダエウスは「キミのそういうところ、ワタシは好きだよ」と微笑んで、彼の頭をハーデスの胸に押しつけた。かり、かり、と乳首をひっかくと、びく、びく、と連動して身体が痙攣する。寸止めを繰りかえされて過敏になった神経は、そこをいじり続けるだけで、いずれは達することができるのではないかと思うほどだった。
(あとで試そうかな)
 などと考えながら、彼の濡れそぼった睾丸に触れる。ぱんぱんに引き締まっているそれをやさしく揉みしだくと、太ももが浮きだしたので、ヒュトロダエウスは彼の脚をかかえてハーデスの腰にかけてしまった。閉ざされていた脚が開かれたことで露わになった窄まりに、自らもローブをたくしあげて露出させた逸物の先端を押しつける。
「っあ、あ、ヒュトロ……」
 濡れた先端がきゅうきゅうと物欲しげに食まれる。だがヒュトロダエウスはそこをキスするように突くだけでそれ以上は与えなかった。かわりに睾丸を愛でていた手をのぼらせ、性器の根元をくるりと撫ぜる。期待に満ちた涎が、またひとつハーデスのローブにしみこんだ。
 ヒュトロダエウスは彼がもっとも感じるやり方を熟知していた。どのように手を動かせば気持ちいいのか、その目に視えるエーテルがすべて教えてくれたからだ。
 イきかけて敏感になった性器をいたわるようにやさしく握る。つるりとした亀頭は今は完全に露出していたが、真っ赤なそれに直接触れるのはやや刺激が強いので、包皮を伸ばしてつつみこむようにくちゅくちゅと先っぽをこねくりまわすと、エーテルはとろりと波うって彼の快感を伝えた。
「っん、っ……んっ、うっ……んっ……」
「……きもちいいかい?」
 わかりきったことをたずねるのも、彼がきもちいいと申告するたびに快楽に酔うことを知っているからだ。
「きもち……いぃ……」
 はあ、とヒュトロダエウスは熱い吐息をもらした。もうそろそろ自身も限界が近かった。こんな淫らにとろけるエーテルを視て、感じて、我慢し続けるのはとても困難だ。ハーデスを起こさないようにと考えていたが、もう日もだいぶ高くなってきている。もういいんじゃないかなあ、と、ヒュトロダエウスはしごく手に力をこめた。
「あーっ、……あ、っ……ひ、っあっ……」
 長い手指で包皮ごしにカリをこねまわす。いかにも繊細といった動きのにあう彼の指は、今やこれ以上ないほど卑猥な手つきで、親友の恋人の性器をなぐさめていた。密着したハーデスのものへ、どろどろに濡れたカウパー腺液をわざと擦りつけてやるようにすると、いやがっているともよろこんでいるともつかない、どうしようもなく発情した声があがった。
「ハーデス。そろそろ起きようか」
 ヒュトロダエウスは熟睡している親友に口づけ、軽く気つけの魔力を流し込んだ。びくっ! と夢のなかで衝撃をうけたような痙攣をして、ハーデスは寝ぼけ眼をひらいた。
「っ! は、あ……?」
「おはよう、いい朝だよ、ハーデス」
「待っ……そんな、い、いく……っあ、でる……っあっああ!」
 ヒュトロダエウスはぐっと腰をつよく押しこんだ。ぬるりとすべりこんだ体内があたたかく逸物を包み込んで、はあ……と深い吐息をもらす。
 腕の中の彼は、ハーデスに絶頂に達しているさなかの表情を間近でみられながら、びゅく、びゅく、と恋人のものに向けて射精していた。

「あっ……あっ……」
 眠たげな目にじっと見つめられながら、男は快感にふるえた。たっぷりと吐き出したものはハーデスの股座を汚して、なおひくひくと痙攣していた。ヒュトロダエウスの指が最後までしぼりだすようにそれを扱いて、きゅうと締まった後孔に感嘆のため息をつく。
「フフ……彼にみられながら出すのは、気持ちよかったかい?」
「ンッ……うう……はっ、はっ、……ハーデス……っ」
 体内を押しひろげる圧迫感に息をつめながら、許しを請うように、あるいは助けを求めるように、男はハーデスの胸元に額を擦りつけた。怒っているだろうか、呆れているだろうか。不安をいだく彼の心境とは裏腹に、ハーデスは彼の頭をやさしく撫でた。
「……あ……気持ち、いい…………」
「ん……こっちは?」
「っ……か……はっ……!」
 ずん、と重い突きが身体の奥底にひびいた。肺が押しつぶされるような衝撃に、声も出ないまま背をのけぞらせる。
「どうかな? いいとろけ具合だと思うんだけれど」
 ヒュトロダエウスのものがイイところをゆっくりと押しつぶすたび、ハーデスの腰にまきついた脚がぎゅっと彼に取りすがった。しかしつぎの瞬間にはすこし怯えたように腰を引っ込めようとした。汚されたローブの下で、ぐんと大きく脈うったのを感じたに違いない。ヒュトロダエウスがそのぶん、なあに、もっと奥にほしかったのかい、とでも言うようにぐりぐりと逸物を押し込んだため、むしろ余計にハーデスの欲情を刻みこまれたことだろう。
「……具合がよくても、先客がいてはな」
「っはあ、……我慢できなくて……わかるだろう? できるだけ早くおわらせるから」
「できるだけ早くって、お前なあ……そう言って早く終わった試しがあるか?」
「あー……そうだったかな?」
 この遅漏め、というハーデスの視線を受けて、ヒュトロダエウスは苦笑いした。
 ふたりが話している間も、ぬち、ぬち、と湿った音をたてながらスローピストンは続いている。たしかにまだまだ絶頂は遠い。ただ出すだけならば押さえつけて腰を思いっきり振り、好き勝手に自分の快感を追求すれば、早く済ませることもできるだろう。しかしまるで性処理道具のように扱うようなことをヒュトロダエウスはあまり好んではいなかった。
 ゆったりとした抽送にとろとろと波うつエーテルを視る。じっくりと性感が高まっていくときの、このエーテルの変化がとても好きだった。それが美しいかがやきを持つならなおさらだ。体液にふくまれるわずかな固有魔力が溶けあって、少しずつ混ざりあう色が好きだった。それは時間をかけてなじませるほど深いところを侵していく。彼が感じ入ればいるほど、欲しいと思えば思うほど、身体は貪欲に他人の魔力を受け容れる。
 だからこそ貪るようなセックスをするのは、完全にとろけきった後がいちばん良い、とヒュトロダエウスは思っていた。とくにハーデスに抱かれたあとの、彼の具合のよさといったらたまらない。ずっと抱き続けていられるのではないかと思うほどだ。親友にもそれをよくよく味わってほしいのだ。そのためにはもっと彼を気持ちよくさせなければならない。
「それじゃあ……キミが汚したところは、キミが綺麗にしないとね」
 ヒュトロダエウスは腕の中の彼を抱きよせて、四つん這いにさせた。ハーデスは親友の意図をくみとって呆れたようなため息をついたが、うながされるまま恋人の前にひざ立ちになった。
 べっとりと白濁液に汚されたローブの下で、ハーデスの物の形がはりついて浮かび上がっていた。むわっとした臭気が男の鼻をくすぐったが、彼は顔をしかめるどころか恍惚とした表情でハーデスを見上げ、舌をのばして自分の吐精したものを舐めとった。
「っ……」
 物理的には大した刺激ではなかったが、舌の腹で何度も丁寧に舐めあげる様は、視覚的にくるものがあった。
「おいしいかい?」
「ん、うっ、うっ……」
 ヒュトロダエウスに揺さぶられながら、ハーデスの股座に吸いつく。じゅ、と音を立てると彼を見おろすハーデスの眉間に皺がよった。
 懸命に奉仕をつづける頭を優しい手つきで撫ぜると、ハーデスは自らのローブを“解いて”いった。腹につくほどそそりたったそれを手で支え、物欲しげに開いた唇へ押しつける。先端はすぐにぬるついた咥内に迎えいれられ、はあ、と深い吐息がもれた。
「キミって本当に……彼が好きなんだね」とほとんど同時にヒュトロダエウスも息を詰めた。ハーデスのものを飲みこんだ瞬間から、中の反応が明らかに変わっていた。背後からは見えずとも、彼の表情は目に浮かぶ。おいしくてたまらないという顔をしているに違いない。その証拠に、彼を見るハーデスは、腰を打ちつけたい衝動を必死で堪える目をしていた。
「お先に、どうぞ。キミの言う通り、ワタシはもうしばらく時間がかかりそうだ」
 ヒュトロダエウスは根元までぴたりと挿入した状態で、腰の動きを止めて言った。
「……いけるか?」
「ん、む……」
 肯定のかわりにちゅうと先端が吸われる。じわりと粘液がにじんだ。
 ハーデス自身はあまり乱暴なふるまいは好まなかったが、ヒュトロダエウスいわく、“プレイ”にはそういう行為がスパイスになる、ということを最近は理解しはじめていた。これはどうなんだ、と思うような行為も、試してみると悦ばれるというのがわかったのだ。だからといって慣れたわけではないが、まあ恋人を喜ばせるためなら一肌ぬげるのがハーデスという男であった。それにいざやってみると、認めたくはないものの、興奮してしまうのが性である。
「ンッ……」
 先端を咥えた頭を両手でつかんで固定する。期待とわずかな怖れに満ちた目がハーデスを見上げた。
「んっ…………うっ……」
 ゆっくりと逸物を飲みこませていく。喉奥に突き当たると、苦しみと快楽のいりまじった声が漏れた。そのまま喉にハメこんでしまうようさらに腰を突き出すと、生理的な反応で押しかえそうと舌に力がはいり、裏筋をちょうどいい加減で舐った。この状態では気道をふさがれ呼吸もままならない。にもかかわらず、彼は自らの意思で抵抗しようとはしなかった。このまま息をせきとめつづけても、意識を失うまで受け入れるのではないか。そんな予感がしたハーデスは、欲望の狭間で血迷うような葛藤を覚えた。
 それでいいのか? “それが”いいのか?
 はあ、はあ、と荒い吐息を漏らすハーデスを視るヒュトロダエウスは、ただ無言で笑みを深めた。
「んぅっ、んぐっ……」
 ひくっ、ひくっ、とわずかな空気をもとめて痙攣する彼を、ハーデスは見下ろし続けた。まだ抗おうとする意思はない。
 ——本当にいいのか?
 そうたずねるように咽喉を二度ほどノックする。おえ、と嘔吐反射がわきおこり、ぐっぽりと嵌めた亀頭を刺激され、ハーデスの眉間の谷間がますます深くなった。それでも彼は獣の姿勢を維持したまま、従順に逸物をうけいれていた。その瞳はしだいにぼんやりと焦点を失い、痙攣の間隔もひく……ひく……とながくなっていく。
「っ……ッッ……‼︎」
 ハーデスははっとして腰を引き抜いた。
「ぁっ……ぅ……」
 気道が開放されても彼はすぐには息をすることができなかった。呼吸の方法を忘れてしまったかのように痙攣を繰りかえし、涙の浮かんだ目で助けをもとめる。
「ひっ、ぐ!」
 びぐっ! と身体がはげしく跳ねて、男は咳き込みながらひゅうひゅうと息を吸った。ヒュトロダエウスが気つけの魔力を流したのだ。
「……私は、なにを」
「大丈夫、彼は喜んでいるよ、ほら」
 ヒュトロダエウスはぜえぜえと息を吐く彼を抱き起こし、あぐらをかいた上に乗せると、ローブをめくりあげて、彼の性器が腹につくほどそり返っているところを見せつけた。
「は、……です、……はあ、はあ、気にしないで、ぁ、……もっと……」
 深くまで入り込んだヒュトロダエウスの存在を確認するように、その手は無意識のうちに下腹部をなでていた。中のものはその行為にさらにぐんと大きくなり、それを感じ取った彼はますます快感にとろけた顔を見せた。
「本当に……欲張りで困ってしまうね、ハーデス?」
 未だ理性をつなぎとめようとしている親友に、ヒュトロダエウスはこちらへ来るよう指で促す。風前のともし火のような葛藤は、それだけでたやすく融解して、ハーデスはひざ立ちのまま彼らの前に身を寄せた。存分に喉をあじわいぬれたモノが刺激を欲してよだれを垂らしている。目の前にほしいものをぶらさげられた男は、あーと口をあけてしたたる蜜を舌に受けようとしていた。
「お、い……⁉︎」
 ハーデスのものはじゅうと音を立てて吸われ、腰が引けるような快感を受けた。だが誘われたのはヒュトロダエウスの咥内だった。根元をつかまれ、そのまま飲みこまれてしまったのだ。えものを横取りされた男が、あ、あ、とむなしく舌を伸ばした。
「やめ、ろ……っは……ン……っ!」
 ヒュトロダエウスの頭を引き剥がそうとするも、それをしゃぶる当人の腕が、がっちりとハーデスの腰を抱えこんでいた。一見して細身に見える体はしかし、たしかな力を有していて抵抗するのは容易ではない。その上、彼の咥内はいったいどうなっているのか想像もつかないほどの快感を与えてくるのだ。舌がふたつあるのではないか、と思うほどだった。
 じゅぷじゅぷと音を立て、頭を前後に振り、唇でしごきながら、快楽にあらがえないハーデスの顔を見上げて、ヒュトロダエウスは目を細めて笑った。口の中に含んだものの硬度とふくらみが増し、射精感が高まっていることを察すると、もう少しだけ舐めしゃぶってやり、睾丸がきゅうと持ち上がったところで、ちゅぽんと口を離した。
「っ……は……っ、……はっ……お前、な……」
 絶頂の間際でとりのこされたハーデスは、腰を突き出しながら短く息を吐いた。恨みがましい目で見られたヒュトロダエウスは「だって最後までしたら、ワタシが彼に怒られてしまうよ」と肩をすくめた。
「だから……ほら、こっちの口なら思う存分……出せるんじゃないかな?」
 ヒュトロダエウスは抱えこんだ彼の顎をぐっと開いてみせた。彼の視線はハーデスのがちがちに硬くなったそれをずっと追いかけていて、それ以外は見えていないのではないかというほどだった。ヒュトロダエウスにとられてしゃぶられている間も、彼は欲しくてたまらないそれを求めて、よだれを垂らすほどだった。
 ひくっ、とハーデスのものが跳ねる。普段はあまり理解できない親友の嗜好が、今は情欲の火にそそがれる油となって、ハーデスを襲っていた。
 もしも——このまま与えなかったとしたら。その開け放たれた口唇を無視し、親友のにやにやと笑う口をこじあけたとしたら。
 ぞくっとするような情愛に身体がぶるりと震えた。
 親友はたいした抵抗もせずに、ああ、そっちを選んでしまうのかい、というような愉快さにみちた、それでいてどことなく暗いまなざしで笑いながら、ハーデスのものをむしゃぶり尽くすのだろう。そして、“彼”の絶望にそまった表情を見下ろしながら、親友の口の中へ溜まりきった欲を吐き出すのだ。親友は彼にまざまざとその様を見せつけるよう、じゅるじゅると吸い上げ、喉をならして飲みこみ、ハーデスのものが萎れるまでやさしく舐めつづけ、ずるりと滑りでたそれが、もうすべてを出しきってしまったことを証明するのだ。
「どうしたんだい?……ハーデス」
 ヒュトロダエウスはそんな欲望すら見透かしていた。そうに違いないとハーデスは思った。ワタシはどちらでも構わないよ、とそのまなざしが言っている。
 ハーデスはかぶりを振った。
 届きそうで届かないそれを、必死に追い求める男の舌のうえに亀頭を乗せてやる。とたんにその顔は悦びに満ちあふれ、もっともっとと誘うように裏筋を何度も舌先がくすぐった。たまらず彼の後頭部に手をやり腰をつきだす。ちゅうちゅうと先走りを吸い出されるがまま、ふたたび喉へぐっと押しこんでいく。
「フフ……よかったね、おいしいかい?」
 耳元でささやかれた先ほどと同じ問いに、彼は何度もうなずいた。
 幸せそうに己のものを頰ばる彼に、ハーデスは若干の罪悪感を覚えた。
「……好きにして、構わないんだな?」
「彼はキミの好きに“されたい”んだよ」
「ん……ぅん……」
 もごもごと肯定されたのは、どちらかといえばヒュトロダエウスの言葉の方だった。好きにされたいとは言うが、とハーデスは、はあとため息を吐いた。自分の快楽だけを追求するのは好ましいと思えないのだ。しかしそれが、相手の快楽となるならば、ヒュトロダエウスの行為が正しいのだろう。いや、だがそれでも——などとハーデスがぐるぐる葛藤していると。
「んっ、んぐっ!」
 ハーデスの腰がヒュトロダエウスの手によって引き寄せられ、無理やり男の喉奥を突かせた。
「いつまでワタシをこの状態で待たせるつもりなのかな?」
 かるく腰を揺さぶりながら、ヒュトロダエウスはやや据わった目でハーデスを見上げた。後孔はきゅうきゅうとモノを締め上げ続け、先走りで満たされた中はすっかりとろけきっており、とっくにちょうどいい具合になっているのだ。早く出したい。思う存分腰を打ちつけて、三発くらいは出したい。そう目が訴えていた。
 ハーデスはヒュトロダエウスの圧にすこし面食らった顔をしたが、まあ、たしかにその通りだとも思った。
「……苦しかったら、ここを叩け」
 太腿をとんとんと指し示す。おそらく苦しくてもしないのだろうが念のためだ。彼はいちおう頷いてはいたものの、苦しいの判断基準には疑問が残る。
 一度逸物を引き抜き、最後の息をふかく吸うのを見届ける。すう、はあ、すう、と肺を膨らませて口を開けたので、ハーデスは彼の頭を固定し、一息に逸物を打ちつけた。
「ンッッ……‼︎」
 ぬる、と口蓋をすべってはいりこんだ逸物が咽喉にぶつかると、ハーデスはそのまま奥をこじあけるように小刻みにピストンした。すかさずやってくる嘔吐反射で舌の根がぐにぐにと先端をやわらかくねぶった。これがたまらないのだ。つかんだ頭を抱えよせて、にじむ先走りをぐりぐりと喉彦に擦りつける。
 ハーデスの下生えにほとんど顔をうずめる形となった男は、苦しみに顔をゆがめながらも、それ以上にのみこもうと何度も嚥下した。じわりじわりと喉奥が押し広げられ、ハーデスの形に作り変えられていく。
「っは……」
 わずかに腰を引くと、ぐぽ、とはめこまれた亀頭が喉道から抜ける。その感覚はまるで奥に挿入したときそのものだった。いや締めつけに関していえばこちらのほうが上だ。
 もはや理性は焼ききれていた。ハーデスはぐぽぐぽと喉奥を犯すことに夢中になった。限界の近かった絶頂の波がよせてきて、うめき声がもれる。ヒュトロダエウスは、欲望に溺れるハーデスの姿に微笑を浮かべた。目の前でとろけてまざりあうエーテルが美しく、そして淫猥だった。
「ん……んっ……だ、すぞ……っ」
 ハーデスは片膝をたてた。最後の追いこみをかけるように荒々しく腰を振り、せりあがる射精感に身をまかせて逸物を最奥までぐっと押しこんだ。
「っく……はっぁ……」
 びゅ、びゅといきおいよく吐精したあとも、どくんと溢れてくる子種を流しこむように角度を調整する。必死でのみこもうと喉仏が動いているのを見て、ハーデスの口角は無意識のうちにつり上がっていた。太ももを力なく叩く合図にも気づかずに、最後まで出しきりやわらかくなっていくまで余韻を楽しんだ。
「っ……はぁ……」
 ハーデスが、ずる、と硬度をうしなった逸物を引き抜く。
 途端にヒュトロダエウスが動いた。意識を失ってだらりとうなだれる彼の身体をうつぶせに押し倒し、もう待てないとばかりに腰を打ちつける。
「ッ……ァ……‼︎」
「はっ、はっ、……あー……気持ちいい……」
 となりでぱんぱんぱんと激しく腰を打ちつける親友を尻目に、ハーデスはあくびをして二度寝を決めこむか否かを思案した。実にすっきりして気分がよかったし、ヒュトロダエウスがヤりはじめると長いのだ。とはいえもう昼を過ぎていて、これ以上、惰眠をむさぼるのは市民としていかがなものかとも思える。それに空腹でもあった。冷めても食えるものでも創るか、とハーデスは身を起こした。
「っ、ぁ、ぁ、ぁ……!」
「おや、起きたのかい、っはあ、寝てても、いいんだよ」
 ずこずこと好き勝手にピストンを繰り返しながら、ヒュトロダエウスは彼の首元に顔をうずめた。ほとんど全身の体重をかけて押さえつけられた男に抵抗の余地はなかった。感じさせるための動きではなく、ただ出したいがための欲望に満ちた交尾のようなセックスだったが、ヒュトロダエウスのおおきく張り出したカリは、それだけで彼の善いところをえぐるには充分だった。
「ひっ、ひゅ、ぃっ、ぃっ、ぃ——ッ!」
 ビクン、ビクン、と跳ねる身体をおさえつけ、なおも情け容赦のない抽送はつづいた。男の手足がなすすべもなくシーツを引っ掻いた。背をのけぞらせながらした、は、は、との短い呼吸はあるいはただの痙攣であったのかもしれない。
「はー、はー、……もう、出そう……っ」
 ヒュトロダエウスは絶対に逃れられないよう、ぎゅうう、と彼を抱きしめて、尻臀にぐりぐりと腰を押しつけた。
 ドクン、ドクン、と逸物がはげしく脈うつのが、男にははっきりとわかった。その吐精はいつも長く、もしも子宮が存在していたら何度はらまされているかわかったものではない。むしろそのような妄想に堕とされてしまうこともあった。腹が膨れるくらいに中に出され、そこをなでられながらデキてしまうかもね、などと言うことを快楽にけぶった脳にささやかれると、そう錯覚してしまうのた。
 だが今日のヒュトロダエウスにはそこまでの余裕はなかった。だらだらと長い射精を終えても、衰える気配のない逸物をゆるゆると動かしながら、目の前の耳たぶを食む。
「あと、二回……いいよね?」
 欲情しきった声でふきこまれたのは、問いかけでも確認でもなくただの宣告に他ならなかった。男はひっ、と引きつった声をあげた。何度も交わるのは珍しいことではなかったが、それは休憩を挟んでの話だ。しかも出せば出すほど、次の吐精まで時間がかかるのは言うにおよばず、ヒュトロダエウスのそれがいつまでかかるのかは、本人にさえわからなかった。
「すこし、休憩……っぁ」
「ごめん……待てない」
 ぎしぎしぎしと激しくベッドがきしんだ。肌と肌がぶつかりあう音と、ぬちぬちと結合部が擦れあう音だけで、耳をも犯されているような感覚に苛まれながら、彼は「あっあっ」と鳴く声をそこに加えた。
「あ、つ……」
 卑猥な律動は止めないまま、ヒュトロダエウスは着たままのローブに手をかけて脱ぎ捨てた。エーテルに分解する手間も惜しかった。
 そのわずかな隙をついて逃げ出そうと前へ這いだした彼の腕をつかみ、ついでにそちらのローブも剥ぎ取ってやる。そしてほとんど強姦さながらに両腕を引き寄せて、そのままずんずんと中を突いた。
「あ……っ、ひっ……、いっ、あっ……」
 ああ、これは、なかなかいいね。
 ヒュトロダエウスは首筋を汗でひからせながら、欲に濡れた目で見下ろした。あまりやりやすい体位とはいえないが、眺めは最高だった。それにものすごく締まる。“犯されている”感じがして興奮しているのだろう。シーツに頬をべったりとくっつけた彼が、よだれの染みを作っている。
「こんな風に扱われて、気持ちよくなってしまうのかい?」
「い、ぃ……あっ、あっ、い……く……っ」
 先ほどから何度もイっているだろう彼は、またしても身体を痙攣させた。もちろん休ませてやるなんて情けは、ヒュトロダエウスは持ち合わせていなかった。それにイってばかりなのにいちいち休んでいたら一生行為がおわらない。そのため彼は絶頂に上りつめたが最後、ヒュトロダエウスが満足するまでトんだまま降りてこられないのが常だった。
 二度目の射精は、ハーデスが三人分の食事を創り、そして自分の分を食べ終わって、一息ついているところでようやく至った。
「っ……ふう……やっぱり、あと一回じゃ足りないかな……?」
「ハァ……次がおわったらせめて飯を食わせてやれ」
 半ばあきれながらハーデスはソファに横たわった。運動をして食事もすれば眠くなるのが生き物の本能だと、惰眠をむさぼることに決めたらしい。
「あっ、こら、待って。冗談だよ。あと一回だけ……ね?」
「も、無理、ぁ、っ、ひっ……」
 ベッドからずり落ち、這いつくばりながら逃げる途中で、彼は歩みを止めてびくびくと痙攣した。連続絶頂の余韻でちいさな波がまだおさまらないのだ。ヒュトロダエウスはそんな彼をやさしく抱き起こして、ふたたびベッドへと乗せてやった。すぐさま隅へ逃げた彼をそのまま押し倒し、てらてらと濡れ光る逸物を挿入する。
「っはあ……」
 心地いい感触に感嘆のため息をもらす。もともととろけていた内部は、二度吐き出された子種のおかげでさらに潤滑性を増しており、奥までピストンするのにもなんの抵抗も受けなかった。結腸をとんとんとキスするように小突くと、吸いつくようなしゃぶられ方をしてたまらない。首筋を舐めると、塩からい味がして、ひぃ、と彼の鳴き声がひびいた。首を唇で食みながらピストンする様は、まさに獣じみたセックスに他ならなかった。
 先ほどさんざんいじめたふたつの胸のつぶは、おいしそうな淡い色合いをして、食べてくださいとでもいうようにぴんとたちあがっている。腰を動かしながら舐めるには姿勢がきびしかったので、指で転がすように撫でまわすと、彼はまた絶頂してヒュトロダエウスを甘く締めつけた。性器はすべて出しきっているのかそうでないのかは定かではなかったが、何度もヒクついて空イキしているのは確かだった。
「ん……あー、出そう、かな……」
 無言でしばらく腰を振っていたあと、ひとりごとのように呟く。ハーデスは寝息を立てていたし、組み伏している彼は意識こそあるものの気持ちよくなりすぎておかしくなっていて、あー、あー、と意味のない声しか出さなくなっていた。ヒュトロダエウスもさすがに腰がだるくなってきた頃合いだった。気持ちは良いものの、まったく出る気配がないので、いちど抜いてから食事をとったほどだ。その際にまたしても逃げようとしたので、彼らは今やベッドではなく床で行為をしていた。適当にクッションを創造して壁際に押しつけ、それから延々と犯しつづけている。
「っ……出る……」
 ヒュトロダエウスはだいぶ薄まった精液をそそぎこんで、はあ……と深いため息をついた。今すぐ眠りにおちたい気分だったが、最後まで起きている者の役目として、やるべきことは果たさなければ。
 気だるい身体を叱咤し、汚してしまったところを魔法で綺麗に片付けていく。ただし三人ともローブは脱ぎ捨てたままだった。
 いまだ絶頂の余韻にぴくぴく震えている彼と、ソファで完全に寝入ってしまっているハーデスを魔法で浮かせて、そうっとベッドにならばせる。そこへ自分も加わって、朝と同じような構図へもどると、ヒュトロダエウスはようやくあくびをして眠りに落ちるのだった。

 ……下半身があたたかなものに包まれている。
 ハーデスは半分夢見心地のまま、んん、とうめいて寝がえりをうった。
 肌寒さを感じる。半端に開かれたカーテンの間から、アーモロートの高い塔が、夕映えをあつめてかがやく姿が覗いていた。翳りはじめた室内は、昼間のぬくもりを残しながら、冷えた空気がただよっていた。
 魔法によって快適な気温をたもつことは実にたやすいことで、公共施設はつねに一定の居心地よさで市民を迎えいれているが、四季折々の風情をたのしむ者は少なくなかったし、ともに暮らす彼らも同じだった。おおさむいさむい、と、あたたかな寝具にもぐりこんだときの幸せは何物にもかえがたい。
 ハーデスはいつものように、となりにあるはず体温を抱こうとした。ぼふ、と間の抜けた音をたてて、からぶった腕がシーツに落ちる。
 足元になにかがはさまっているのを感じながら、覚醒しない意識は空白のシーツをさまよった。どこへ行った、と、さらに奥へ手をのばすとようやく指先がぶつかって、そばへとにじり寄る。背中をぐっと抱き寄せてみるが、どうもいつもの感触と違うような気がすると重いまぶたを持ち上げる。
「ほぁん……ふにょ……んん……」
 目の前にあったのは独特な寝言をつぶやきながら寝入っているヒュトロダエウスの顔だった。
「…………」
 ハーデスはそっと手を離したが、奴も勘違いしているのか、抱き枕がわりに腕をまわされてどうにもしようがなくなってしまった。
(あいつはどこへ行った……?)
 覚醒しはじめた意識がようやく足元へ向かう。
「んー、っ……」
 くぐもった声がひびいた。手を伸ばすと頭髪の感触。太ももの間には定位置からずいぶんと離れた男がはさまれていた。
 “何を”していたのかは明白だった。半勃ち状態のモノは全体的に濡れていて、冷ややかな外気を感じていた。脚を持ち上げると、案の定、彼はさっそく“途中”のモノを咥えようと口を大きくあけた。ハーデスは自分のモノを手で覆い隠してそれを阻止した。
「あれだけヤってまだ足りないのか」
 幸せそうに眠りについている親友を起こさないよう抑えられた声が、呆れたように言った。相変わらず無尽蔵な体力だ。ヒュトロダエウスがいなければどうなっていたことか……いや、あいつが交わるようになってますます悪化しているような気もする。ハーデスは考えるのをやめた。
「だって、君とはしてないじゃないか……君のが欲しいんだよ、ハーデス……」
 隠されてしまった竿部分はあきらめて、かわりに彼は陰嚢にぴとりと唇をくっつけた。ちゅ、ちゅ、と口づけが落とされ、皮が食まれて、熱い吐息がかかる。どくんと血液が集中する。
 ハーデスは深いため息をついた。扇情的な行為はたいてい、今隣で寝ている男が余計なことを吹き込んだ結果だが、殺し文句は天然ものだ。
 もはや覆い隠しきれなくなった手を退けると、彼は嬉々として逸物に吸いついた。絶対に逃がさないとばかりに腰にしがみつかれ、奥深くまで咥えこまれた先端が咽喉にぶつかる。奥を突くのが好きだとわかっているのだ。ハーデスは彼の思惑どおり、反射的に腰を突きだした。やわらかな感触が亀頭を締めつける甘い刺激にあふれた先走りが、彼の喉をうるおした。
「っ……こっちに、来い」
 もっと味わっていたい気持ちをおさえ、彼を定位置——ハーデスとヒュトロダエウスの間——まで引き上げる。朝のように彼の脚を自分の腰に乗せる形でひらかせ、たっぷりと唾液のまぶされた逸物の切っ先を調整する。
 ぬるぬると窄まりの位置をさぐる熱いモノに、彼は「ぁ……」と期待にふるえる声をあげた。
 ヒュトロダエウスのモノにさんざん貫かれたそこは、紅潮し火照ったままだ。待ちきれないように開閉する後孔へ、ぬち、と先端があてがわれる。
「っ……ん、う……」
 ぐりぐりと押しこむようにしてハーデスが体内に侵入する。ほぐれているとはいえ、ヒュトロダエウスによって洗浄されてある中は、すぐに抽送するには潤滑が足りていない。
「……きつ、いな…………」
「ぁ、ぁぁ……っ」
 創造魔法によってぬるい液体が奥を満たしていく。彼はまるで大量に種付けされているような充足感に陶酔した。ハーデスの首に腕をまわし、肌と肌をぴたりとあわせて密着する。後孔のすき間からとろとろと潤滑液があふれてくる頃には、自ら腰を揺すって恋人をあじわっていた。
「っ……はぁ……あー、っ、あっ……」
 うっとりと夢中になって腰を擦りつける。すべりの良くなった結合部で、泡がつぶれる淫猥な音が鳴った。ハーデスの腰にからむ脚が何度もずり落ちてはしがみつく。むきだしの腹にふれる性器を擦りつけているのか、中の善いところを探しているのか。いずれにせよ相手の体をつかっての自慰行為のようなものだった。
「っ……はぁ……ハーデスの、気持ちいい……ぁ」
 ハーデスの理性がぷつ、と切れた。
 腰にからみついた脚を持ちあげ、さらに大きく股をひらかせる。
「ッ……ア!」
 後孔をなめらかに逸物が出入りする。嬌声のつづきはハーデスの口づけで塞がれた。彼の後頭部をかき抱き、逃れられないように拘束したが、そもそも彼には逃げようとする意識がないようで、積極的に舌をさしだした。
 ふたりがリップ音をたてながら角度を変えなんども唇に吸いつきあっていると、交接による振動に寝心地がわるくなったのか、ホァン、とヒュトロダエウスが寝言をつぶやいて寝がえりをうった。親友の腕から解放されたハーデスは、舌をひきぬいて身を起こした。縦に大きくひらかせた股の間に身体をもぐらせる。
「あっ、あっ、あっ、お、奥うっ……!」
 彼はシーツにすがりつきながらなかば悲鳴じみた声をあげた。ヒュトロダエウスにも同じことをされたことがある。この体勢はもっとも深いところまで挿入できるのだ。ふたりの股ぐらが密着するたび結腸をこじあけられ、ハーデスの肩に乗った片足のゆびがぴんと伸びてはまるまった。
「声、おさえてろ……」
「ぁああああ……」
 ハーデスはなかば折りたたむようにして前かがみになったが、柔軟性のある身体はさしたる苦労もなくそれを受け入れた。
 限界をこえて体内を犯すものにあえぐ、彼の口元にゆびが突っ込まれる。
 彼はハーデスの指を口にふくんで、さながらそれのように丁寧に舐めしゃぶった。そのままゆっくりとピストンが再開されると、くぐもった声ととともに、咥内のゆびに歯列が当たった。甘噛みのようなものだったが、彼としては意識して噛んだわけではないようで、怯えたように舐めるのをやめた。
「んっあっ、あっ……んむ!」
 今度は掌が口をふさいだ。
「んっ、んっ」とくぐもった嬌声が鼻をぬける。鼻腔こそふさがれていないものの、体内を圧迫されている状態では、吸い込める空気の量がいささか足りなくなる。引き剥がそうと指をくいこませたが、顎ごとがっちりと掴まえられていて、力なくかきむしるだけで精いっぱいだった。
 ハーデスのものがぬちぬちと出たり入ったりを繰りかえしているうち、彼の意識はやがて靄がかかったようにぼんやりしていった。根がまじめでむりやりなどという行為の似合わない恋人に、好き勝手に犯されているような、そんな妄想にさえとりつかれる。
 昼間に一度出しているだけあって、ハーデスの絶頂感はいまだ遠いところにあった。鼻にかかった喘ぎとベッドのきしみが、日が落ちて室内が暗くなるまで続いた。
「っ……はぁ……」
 途中途中で休むようにゆるやかになりながらも、延々とつづいていた抽送がいったん止む。
 彼は口をふさいでいた掌から解放されて、はーはーと空気をもとめて深呼吸した。少し冷えた空気が肺に満たされていくのが、火照った身体に心地よかった。
 ハーデスは、ちら、と隣にねむる友人に視線をやる。一度寝入ると存外なかなか起きないやつではあるが、どうにも気を遣ってしまう。逆の立場では、真隣ではげしい情交が繰りひろげられているとしてもだ。
「っあ……」
 どろりと粘液とともに逸物が抜けていき、名残惜しげな目がハーデスを追いかける。
「……そんな顔をしなくても、移動するだけだ。ここでヤるのは気が散る」
 腰砕けになっている男をささえて、ベッドから降りるのを助ける。移動するといってもそれほど広いというわけでもない室内だ。たいていの場合、行為をするときはベッドかソファかあるいは床か——となるが、ヒュトロダエウスのように彼を床にころがして……という気分になるのは滅多にないことだった。
 そのため、今回も彼が運ばれたのはソファのうえだった。それでもほとんど投げ込まれるようにして寝かされたのは、ハーデスの余裕のなさを示していた。あらためて彼を見下ろしたハーデスの股座のものは、腹につくほどそそりたち、淫猥に濡れ光っている。そして暗がりの中でも、そのまなざしがぎらついているのがよくわかった。たれさがった前髪を邪魔そうにかきあげてから、無造作に片足をもちあげられて、ぽっかりと空いた後孔をふさぐものが再びぬるりと侵入する。
「は、……です……っ、お、おく、に、あたって、っ」
 がちがちに硬くなった先端が、結腸をとんとんと口づけるように小突く。ハーデスは身体の奥深くまでつながるのが好きだった。そして肌と肌をあわせるのも。隙間もないくらいに抱きあうと、彼の美しいエーテルがきらきらと瞬くのだ。
「あっあっ、僕……君に、キスした……い」
 ハーデスは、結腸の感触をあじわうようぐっと腰を押しつけた。彼は奥でひくひくと逸物が脈うつのを感じて背筋をぴんとはった。
 最奥の締めつけをたっぷり堪能してから、ハーデスは肩に乗せていた脚をおろしてやった。根元まで入り込んだそこから少し腰をひいて、あおむけになった彼とたがいの背に腕をまわして抱き合うと、汗ばんだ肌がしっとりと吸いついた。
「ん……ふ……すき、だ、ハーデス、すき……」
 覆いかぶさったハーデスの頬、目元、鼻先、唇の端などに、やわらかな感触がふれた。それに応えるように頭髪の生え際をなぞり、まぶたを食み、耳たぶをはさんで軽くひっぱり、軟骨を甘噛みする。
 純粋な愛撫と性感がまじりあったふれあいをしていると、ぴたりと密着した体がとけあっていくようだった。
 間近で見つめあい、瞳にうつる互いの世界さえ共有すると、どちらからともなく自然と唇が重なりあった。しっとりとした薄い皮をふにふにと押しつけあう、児戯のようなキスを何度かする。どちらが先に音をあげるか、根比べをするように、間隔は深くなりつつもその奥には至らない。
 ハーデス、と、ただ名をささやく唇の動きが皮膚をくすぐる。すこしの間を置いて、なにも言葉を口にしていなかったハーデスが、同じように彼の名を呼んでみせると、もう堪えることはできなかった。
 薄くひらいた隙間から舌が伸びて、媚びるようにハーデスの唇をなめた。
「ん、っ……ふっ……」
 舌をからめて唾液を交換しあう。興奮しきった互いの鼻息が熱かった。ハーデスもまた限界が近くなったのだろう、密着したままだった腰がゆるやかに動きはじめた。
 奥を穏やかにうがたれて漏れる嬌声は、ハーデスの口づけによって堰き止められて、飲みこみきれない唾液が口端から垂れ伝った。
 息苦しさは今やハーデスも同じことだった。高まる興奮に突き動かされるまま、律動が切羽詰まったように早くなる。とろとろの結合部から、パチュパチュとみだらな音がなりひびいた。彼の足がハーデスにまきついて、奥へ奥へと誘う。はげしく小刻みに打ち付ける腰だけを使ったピストンに、「んう——っ!」と彼の声帯が絶頂を告げた。
 ハーデスはなお口付けたまま、びく、びく、と跳ねる体を押さえつけ、ビンと伸びた舌を夢中になって吸い上げ、そして、彼を渾身の力で抱きしめた。
 どくっ……どくっ……と、噴きでる子種が彼の腹を満たしていく。尿道をとおっていく感覚からするに、一度目よりも量が多いのではないかとハーデスは思った。
 上からも下からも体液をそそぎこまれた男は、惚けた表情でときおり痙攣した。性器からは透明な粘液が垂れている以外は、なにも出ていなかったが、その震え方はまぎれもなく達していることを証明していた。
「っ……は、あ……」
 ハーデスは絶頂の余韻が過ぎ去ってからようやく唇を離した。イったばかりで敏感な逸物を注意ぶかく引き抜く。
 重なりあっていた肌が離れると、汗に濡れた体が凍えるようだった。下敷きになっていた彼はぶるっと震えて、すがりつくようにハーデスを追った。硬度をうしない、ぶらりと垂れ下がったものに舌を伸ばして絡めとる。
「っ、吸う、な……」
 先端をなめられると、くすぐったさにハーデスの腰が引けた。それでも彼は引く気はみせず、もっと味わわせてくれとばかりに腰にしがみつき、濡れたそれを丁寧に掃除する。
「ん……もう、無理だ、離せ」
 あいにく親友とちがって弾数には限りがあるのだ。少なくとも連続でヤるなど、ハーデスにはできそうもなかった。そういうイデアを用いればあるいは可能だろうが——その存在をふきこもうとする親友を慌てて止めたのは記憶にあたらしい。
 静止にかまわずしゃぶりつこうとする彼を無理やり引き剥がし、ソファを降りる。
「おい、起きろ」
 広々としたベッドの中央でねむる親友をゆすり起こす。
 寝たふりを決めこんで、ふたりの情事を観察していた……なんてことはなくヒュトロダエウスは本当に寝入っていたようで、のっそりと起き上がった彼は、寝起きにしか見られない姿——口元をひきむすび、眉根をよせ、ぼさぼさと乱れた髪で、大あくびをした。
「…………なんだい……?」
「こいつの相手を頼む」
 足元にしゃがみこんだ男を指し示す。萎れたままぴくりとも反応しないそれをもごもごと口にいれている。
 ヒュトロダエウスの据わった目に、抱かれたての彼のエーテルが映る。ハーデスのものと溶けあってとろりと揺蕩うきらめきは、ヒュトロダエウスの視る世界でもっとも好きなものだった。
「……おいで」
 その言葉をかけられた者は、誰しもふらふらと引き寄せられてしまうような、そんな魔力がこめられていた。寝起きのかすれた声は、穏やかさの奥に秘めた本性をむきだしにするようでもある。否、微笑をうかべるヒュトロダエウスの和やかな人柄は、たしかに彼の一面ではあるのだが、慣れ親しんだ相手にだけみせる、気だるげな所作は、きっと意図して隠されているのだ。だからこそ——。
 とんとん、と、ここにおいでと示すように、ヒュトロダエウスは隣をたたいた。
 彼はうながされるままベッドに片膝をのせてあがったが、ふと迷うように、あるいは誘うようにハーデスを振りかえった。ハーデスは彼の頭にやさしく手を乗せ、耳元に口を寄せた。
「……後で、またくれてやる」
 くしゃっと頭髪を乱し、さあ行けと手をひらひらと振る。
 これでは僕ばかり求めているようだ、と彼はすこし恥ずかしくなった。それでも火をつけられてしまった身体のうずきを無視することはできなかった。特に、今目の前でにやにやとしながら、彼が手元に自らやってくるのを待っている、ハーデスの親友に身を共有されてからは。
「美味しそうなキミ。ワタシに食べられるためにきたのかい」
 そのとおりだった。男は捕食される気分で、ヒュトロダエウスの腕の中にもぐりこんだ。すうと息づくと、肌にしみついた彼の愛用の香りが脳をしびれさせる。それはハルマルト院で創造された食虫植物を彷彿とさせた。あまい香りでおびきよせ、行方もしらず寄ってきたものを食らってしまう。
 ヒュトロダエウスの底知れぬ微笑が近づいて、男の顔に陰をつくった。背後には星の明かりがさしこんでいた。ぞくっと鳥肌がたって、けれどもはや逃れることはかなわなかった。
「っひ……」
 れろ、と首筋を舌がなぞる。その下にめぐるエーテルを味わうように、血脈をたどるように、頸動脈にそって何度もゆっくりと舐めあげる。これから牙を突き立てるにふさわしい箇所を吟味するような所業だった。まさしく被捕食者の気持ちを抱いた彼は、思わず身をよじって、助けをもとめるようにハーデスのほうを見た。
 ぼんやりとした魔法の灯火が、ソファの前にうかんでいた。
 こんな時間になってしまったが、ハーデスには先日見かけて気になって持ち出した弁論記録があったのだ。先ほどまで濃厚なひとときを過ごしていたソファに寝転がり、記録に手をつけていた。完全に集中していて、彼のほうを一瞥することもなかった。
「……そんなに彼が恋しいかい?」
 おびえる彼の心を見透かして、ヒュトロダエウスがその首筋に噛みついた。
「っあ、あ……っ!」
 どろ、と体内に吐き出された白濁液が漏れる。
 淡く歯型のついた首をいたわるように舌が這う。
「ああ……だめじゃないか。大切な彼のタネ、ちゃんと飲みこんでおかないと、ねえ」
「ぁ、う、あっ……」
 垂れ落ちたそれをヒュトロダエウスの指がすくって、ちゅぷちゅぷと中に押し戻していく。そうしながら長い舌は鎖骨を通り、胸元にちゅ、ちゅ、と口づけを降りそそがせながら、赤く色づいた粒のもとへ到達する。
 はぁ……と熱い吐息が表面をくもらせた。舌先から唾液が滴って、思わず男は自分の胸元を凝視した。すると彼を視ていたヒュトロダエウスと視線が合って、今にもしゃぶりつかんと開いていた口がニヤと歪んだ。
「ひっ、い……っ」
 ヒュトロダエウスは舐めるふりをしただけだった。あとほんのすこし伸ばせば乳頭にふれる舌先をちろりと動かしただけだ。それだけで彼は胸をつきだして幻覚に悶えた。
 かゆい、さわりたい。
 彼は自分の手でむずがゆさを解消しようとしたが、その心の動き——エーテルの揺らぎをヒュトロダエウスが察知しないわけはなく、両腕は抵抗の意思をみせる前にシーツに縫いつけられた。
「今日は、ここだけでイってみようか」
 つん、と舌先が突いた。
「っ——! ぁ……ここだけ、って」
「うん、今の揺らぎかたならきっとうまくできるよ」
「い、いやだ……」
 これ以上、浅ましい体に作り変えられてしまっては。
 その瞳には恐怖と期待がいりまじっていた。いずれにせよ逆らうことはできないのだ。ヒュトロダエウスの微笑をみて、罪とはこのような姿をしているのだろう、と彼は確信した。悪魔は醜悪な姿をしていないのだ。美しく、甘く、ひとを堕落させるからこそ罪たりうるのだ。
「いやなら、仕方ないなあ……」
 敏感な箇所だけを避けるように舌先がくるくると円を描く。
 彼はひいひいと足を擦りあわせた。懇願するように胸をなんども突き出すも、ヒュトロダエウスは、どうしたんだい、というように微笑みを返すだけだ。相手が自分の口で望まぬかぎりは絶対にそうしない。ハーデスも同じようなものだが性質がちがう。ヒュトロダエウスは常に心を読んでいる。自然と視えてしまうのだというが、わかっていて自分から堕ちてくるのを待ち、言い訳することさえ許されない甘い鎖で縛りあげるのだ。
「わかっ……た……から……」
「……から?」
「な、舐めて……」
「舐めて、それで?」
 ごく、と喉がなる。底なしの深みに堕ちていく。
 拘束されていた両腕が解放されても、その手首にくさびが穿たれているかのように、もう抵抗する意思は働かなかった。
「言ってくれないとわからないよ。キミがどうしてほしいのか……」
 みじかく整えられた指先が、続きをうながすように彼の下唇をたたく。
「……ち……乳首、だけで、……イ、イかせてほしい……」
 ヒュトロダエウスの目をみることができず、ハーデスのほうに視線を投げる。長い足が投げ出されているのが見えるだけで、表情をうかがい知ることはできなかった。
「それじゃあ、朝みたいにイくときは彼にも見てもらおうか」
「っ……な、」
「見られながらイくの、好きだろう?」
 否定することはできなかった。ヒュトロダエウスを前にして嘘をつくことはできない。なにか言い訳でもすれば墓穴を掘ることになるだけだ。
 だが、羞恥心やおそれは、ヒュトロダエウスの舌が胸のつぶの先をくりくりと舐めまわした瞬間、すべて霧散した。
「っあ……あっあ!」
 決してつよすぎない刺激で、むずむずとした快感が駆け上る。もう片側はかわいた指先でつままれて、すりすりと擦りあわされる。男はたまらずヒュトロダエウスの頭と手を抱くようにおさえつけた。それは愛撫を阻害するというよりは、もっとと乞い願うものだった。
 ヒュトロダエウスは微笑しながら見せつけるように、長く伸ばされた舌先で、乳頭をぐにぐにとつぶし、こねくりまわすように舐めあげた。そしてあわい刺激になれはじめた頃、赤く色づいた果実のようなそれに、一瞬、歯がつきたてられた。
「っひ、ぃ……!」
 乱暴にあつかわれた粒を癒すように、ちゅうと吸いあげられる。そのまま唇でしごくように何度もちゅぱちゅぱとしゃぶられ、快感もあいまってそこが性器のようになってしまったようだった。
 今まさに体が作りかえられている。悦楽の泥濘にずぶずぶと沈みこんで、二度と這い上がることもできないように。彼は「ヒュトロ、」と二度懇願した。許容量をこえた感覚に、こわいと訴える。
 ヒュトロダエウスは、ゆっくりと顔をあげた。舌先と乳頭を糸がつないだ。おびえる彼の耳元に微笑みをよせて、大丈夫だよ、と、甘ったるい声でささやく。
「ほんの少し、善くなるだけだからね……ほら、……気持ちいいだろう?」
「ぁ……あぁ……」
 濡れそぼったそこを指の腹がくるくると撫でつける。心なしかぷっくりと膨らんできたようでもあった。片側をいじっていた指は、彼の口元に差し出され、彼はそれを当たり前のように舐めしゃぶった。唾液をまぶされた指がふたたび降りて、ヒュトロダエウスの両手はぬるついた乳首をやさしく弄ぶ。ときおり、ぴんと弾かれては、ヒッという声とともに、性器から粘液がたれて、下腹部の水たまりをひろげた。
「うん、その調子だよ……よしよし……」
「っ……っ……!」
 先端を指先でひっかかれて、びくびくと体が跳ねる。彼は声もなく身もだえた。おそろしいことに、イきそうでイけないもどかしさが募りはじめていた。性器には指一本触れていないというのに、睾丸が収縮して、精液がせりあがってくる感覚があった。
 反射的に身をよじり、逃れようとする彼を、ヒュトロダエウスは背後から抱き留めた。
 ハーデスの子種が漏れでる窄まりに、蓋をするようにふくれた亀頭を押しつける。胸のつぶをこねまわしながら、先ほどまで恋人のものを受け入れていたそこへ、はるかに多くなじませた自分のものを押しこんでいく。
「ハ……で、す……っ!」
 男は身体をくの字にまげながら、ほとんどわけもわからず彼の名をよんだ。
「ぁ、っ……はー……ですっ、ハーデス……っ!」
 ソファに横たわっていたハーデスが身を起こした。だがもう少しで読んでいる弁論記録の区切りがよくなるようで、中途半端なところで動きを止めて目が文字を追っていく。
「あー……すこし待て」
 切羽詰まったような悲鳴にたいして、ハーデスはなんでもないことのように言った。ヒュトロダエウスによる責苦をうける彼が、助けをもとめてハーデスを呼ぶことは珍しくなかった。
「……だってさ。イくのはもう少し我慢しようか」
 そうは言いながらも、ヒュトロダエウスの指先の動きは止まらなかった。
「あ、ィっ、あ、ああ、っ」
 男はもじもじと太ももを擦りあわせた。
 ヒュトロダエウスは根元まで挿入したものの、それ以上は腰を動かさなかった。かわりに彼の耳をながい舌が犯した。ぐちぐちとピストンするように耳孔を抜き差しし、あばれる身体をがっちりと押さえつけ、乳頭をかすめるようにひっかく。
 直接的な刺激がないまま射精感が高まっていく。もし性器をしごいていれば、もうとっくに出せていたというのに、あとすこし、壁をこえるための何かが足りなかった。もどかしさに気が狂いそうで、シーツに性器を擦りつける。ぬるぬると先端が摩擦されて、ひくひくと震える。
「自分で言ったことも忘れてしまったのかい?」
 ぐいと顎をつかまれて、彼はヒュトロダエウスと強制的に視線を合わされた。口元はいつものように弧を描いているのに、欲望にぎらついた目は、まったく笑ってはいなかった。
「キミはどうやってワタシにイかせてほしかったのな。もう一度言ってごらん」
「ぁ……ぁ……ち、乳首、だけで……」
「それなのに、勝手にイこうとしたのかい? いけない子だね……」
 耳の中に直接ふきこまれる言葉は、脳の中枢までひびきわたり、それが命令となって彼の四肢を支配した。恐怖と快楽とでおかしくなって、生理的な涙が頬をつたった。
 その雫を、ハーデスの指がすくいとった。
「やあ、もういいのかい?」
「……この状況で集中できるか」
 そうでもないように見えたけれど、と、ヒュトロダエウスはフフと笑った。彼のエーテルがいよいよおいしそうにとろけだしたから、ハーデスも我慢ができなくなったのだ。
「キミが乳首だけでイってしまうところ、彼に見てもらえるよ。さあ、がんばろうか」
「あ、あ、あっ、ああ……!」
 星明かりを受けたハーデスの瞳がじっと彼を見つめる。それだけで魂の奥までさらけだされるような気分になって、体内を循環する魔力回路がはげしく脈うって身体に熱をともした。
 夜の闇も、彼らの眼を覆うことはできない。
「あ、イ、イきそ……う……っ」
 奥底にある快感をたぐりよせ、逃がさないように足がぴんと伸びた。ヒュトロダエウスの指がこりかたまった乳首をつまんでぬるぬると扱きあげ、絶頂をうながす。
 ハーデスは彼のあごをつかんでその顔をしっかりと覗きこんだ。未知の快感に頬を上気させ、他ならぬ親友の手によって、今まさに絶頂へとみちびかれようとしている恋人の瞳を。
 くい、くい、と腰が虚空を突いて、はあです、とかすれた声がすがった。
「ぃっ……あ——っ!」
 エーテルが弾けた。
 アーモロートの夜空にも優る瞬きが飛び散り、夜の帳に閉ざされた室内を跳ねてきらめいた。その絶頂が深ければ深いほど、光彩はあざやかになり、空間にただよいながら、彼らの身体にとろりとまとわりついた。
 まぎれもない絶頂の証だったが、彼の性器は断続的に跳ねるばかりで、なにも出てはいなかった。ながいながい空イキの快感に、口をはくはくとさせながら恍惚にひたる顔を、彼は最後までハーデスに見届けられた。
「……ぁ……は……」
 弄られつづけた乳首がじんじんと熱く火照っていた。
 硬直していた体から力がぬけて、背後のヒュトロダエウスへともたれかかる。体内を支配する欲望のくさびが堪えがたいように脈うっていた。彼がぼうっとハーデスを見上げると、その股座でも同じものが天をむいてそそり立っていた。
 ぎし、と三人目の重みをうけいれたベッドがきしみをあげる。
「ハー……デス……」
 彼が恋人へ手を伸ばす。
 ヒュトロダエウスは身をつなげたまま彼を抱きおこした。結合部にまとわりつく白濁液がぬちと音をたてた。
 親友を受けいれながら、焦がれるようなまなざしを向けてくる彼へ、ハーデスはついばむように口づけた。とろとろと流れるその身のエーテルのかけらを、唇ですくいとっては味わうように。ヒュトロダエウスの目に、星屑のようなきらめきが食まれていくのが視える。ああ、ワタシもほしいな、とエーテルの輝きに魅入られ、追って、冥界につながるまなざしと視線が交差する。
「……ん……」
 彼という明星のかけらが、親友との口づけを通して受け渡される。舌がぬるりと絡みあって、そのはざまで彼の魔力を味わいあう。
 ヒュトロダエウスは名残惜しむように、二度、三度、彼の中に出入りしてから逸物を引き抜いた。ハーデスの子種がまとわりついた肉欲が、ビクビクと震えた。かわりに彼のエーテルの残滓をすべて奪いとって、星の共有は終わりを告げた。ハーデスの唾液とまざりあってとろける味わいを、咥内でもてあそびながら、ヒュトロダエウスは彼の身を明け渡した。
「んっ……あ……あ……」
 親友が抜けた空白は、すぐに恋人によって埋められた。抱きしめ合いながら幸福にひたる彼の口元へ、ヒュトロダエウスのものが差し出される。
「キミの大事な彼のものだよ」
 体内からかきだされた種をまとう逸物に彼の舌が伸ばされた。ハーデスを離さないようにすがりついているにもかかわらず、その親友の肉棒を舐めあげている。背徳感がじんわりと場の空気を満たしていく。彼ら三人ともが同じ熱気を吸っていた。
 ヒュトロダエウスの浮き出た血管の一筋一筋もあらわになった頃、意識をもどすように律動がはじまって、伸ばされた舌はだらりと垂れ下がった。
「あっあっあっ……んっ……」
 たびかさなる交わりと絶頂にさすがに疲労もでてきたのか、彼はうつろな目をしてただ揺さぶられた。まきつけた足もずり落ちてはかろうじて引っかけるといった具合で、艶声もすっかり掠れている。
 なかばお預けされた形のヒュトロダエウスは、彼の唇に先端を何度かおしつけたが、口を開けて受け入れる意思はあるものの、力がはいらないのか歯列に阻まれて、断念せざるを得なかった。いずれにせよ、下から突き上げられている状態では、ろくに口淫することはできない。
 であれば、と、ヒュトロダエウスは思いついたようにハーデスを振り返った。
「ねえ、舐めてくれるかな?」
 快楽に没頭している親友に、そんな言葉を投げかける。普段であれば「はあ?」とでも返ってくるのが常の問いかけであり、ヒュトロダエウスも冗談で言うことのほうが多かったが、今は違った。
 彼に負けず劣らず不鮮明なまなざしをしたハーデスは、ヒュトロダエウスに目を向けて、なにも言わなかった。汗をにじませながら腰をふり続ける友は、すっかり彼のエーテルに酔っていて、むきだしになった本能だけで動いていた。
 それでこそ、彼を堕とした甲斐があるというものだ。ヒュトロダエウスは危うげな笑みを深めた。見せつけるがごとく逸物をしごきながら、親友の目の前で腰を突きだす。先端が頬にあたって、先走りが糸を引いた。彼とちがって積極的とはいかない友の口元へもぐりこむように、角度を調整し、あてがってからもう一度、逸物を押しつける。
「んッ……」
 ハーデスの口唇をこじあけてヒュトロダエウスのものが侵入する。歯が当たらなかったことから、親友にも受け入れる意思はあったようだ。それに舌もぎこちないながら絡みついてくる。
 しかし咥え慣れた彼とちがって、ハーデスの舌技は稚拙だった。ほとんど口に含むのが精一杯で、喉まで押しこもうとすると、半分もいかないうちに嘔吐いてしまう。
「キミ……彼より下手だね……」
 思わず本音が口をついて出ると、はっと意識が覚醒したようにハーデスは親友を睨みつけた。ほっとけと言わんばかりだ。
(いつも自分がやっていることなのになあ)
 ヒュトロダエウスは仕方なく、浅いところで腰を振った。
「んっ……ふ、っ……」
「“彼”が何回も味わったものだよ。ほら、がんばって」
 後頭部をつかんで好き勝手していると、ハーデスに揺さぶられている彼が、情欲に濡れた目でふたりの戯れを見上げていた。
 “彼”の望まぬことを、ヒュトロダエウスは行わなかったし、“彼”が拒絶しないかぎりは、ハーデスはどんな行為も受け入れた。
 振り回されているのはいったい誰なのかな。そんなことを思いながら、咥えられていない部分を自分で擦って興奮を高めていく。
「はあ、……イきそう……」
「っ、んん!」
 まさか、このまま出すつもりか?
 ……とハーデスの目が訴えていたが、ここで頂点を逃せばいつ出せるかわからない。ヒュトロダエウスは身を焦がす情火にさからわず、快感を追う動きをはやめた。
「ぅん……!」
 奥まで突っ込まなかったのが、せめてもの情けだった。薄まっているとはいえそれなりの量を吐精して、はあ、はあ、と息を荒くする。汗が首筋を伝った。
「……吐き出すなら、彼にあげたら喜ぶんじゃないかな」
 逸物によって出口をふさがれていて、しかし飲みこむこともできず、ただ眉間にしわを寄せる親友に告げてから、押さえつけていた頭部を解放する。
「っ、お、え……っ」
 その瞬間に、ハーデスは口の中のものを吐き出した。耐えきれなかったのだ。私はこんなものを飲ませていたのか、と自分を責める始末だった。
 しかし、彼はハーデスの口からこぼれ伝う精液をみて物欲しそうに、ヒュトロの、……と口にした。
「ハーデス……」
 彼は自ら身を起こして、ハーデスの濡れた口元に舌を這わせた。決して美味しいとはいえないはずのものを舐めとり、飲みこんでいく。呆気にとられて半開きになった唇をちゅうと吸い、硬直するハーデスの頭を抱きながら、咥内に残ったものも残さず掬いとった。
 すると今度はヒュトロダエウスのほうに彼の腕がまわされて、抵抗せずに抱きよせられると、同じように唇をむさぼられた。
「まいったなあ」と、ヒュトロダエウスが親友の気持ちを代弁するかのように言って、笑った。
 彼はふたりだけの視る世界に羨望をいだいたのだ。ふたりを惹きつけてやまない光が、他ならぬ自分自身であるとしても。
 ハーデスとヒュトロダエウスが彼のエーテルを共有したように、彼はふたりの唾液を口の中でまぜあわせて、幸せそうに微笑んだ。

 三人は交わりを終えると、だいぶ遅めの夕食をとって、魔法で綺麗にととのえたベッドでいつものように横たわった。うつらうつらとしながら、眠りにつく前の会話をたのしむ時間だ。あるいは気軽な弁論か、三人でちょっとした創造魔法を共同でつくりあげたり、そんな他愛のない時間を過ごすのだが、休日の夜の彼らはたいてい疲れ果てていた。
 血液を燃えさからせていた情欲も今やすっかり引いた。むきだしの首筋が冷ややかな空気に撫ぜられて、彼は目の前のふかく呼吸をする胸元にうずまった。
「そろそろ暖房のイデアが必要だと思う」
 魔法で空調をどうにかする気はなかった。かじかんだ指先を三人でともしびにかざしているのが好きだったからだ。
 ほとんど眠りにおちていたハーデスは、片目のまぶたを半分あけた。
「ああ……」とあまり聞いていなかったのか気乗りがしないのか、曖昧な返事をする。
「そうだね……そろそろみんな、この寒さにふさわしいイデアをたくさん登録しにくる頃だ。良いものがあったら持ってくるよ……」
「僕は、あのテーブルにブランケットがついて中が温かくなるやつがお気にいりなんだけど」
「あれは……人気のあるイデアだね……」
 ぼそぼそと会話をするうちに眠気が襲ってきたのか、ヒュトロダエウスのまぶたもだんだんと落ちかかる。ハーデスはすでに両の目を閉じていた。しかしかろうじて起きていたのか、「もう寝ろ」とひとことだけ呟いた。
 腕の中でおだやかに揺らぐエーテルは、彼らにとっての安らぎだった。そしてふたりの体温にはさまれて眠る彼にとっても。
「おやすみ、ヒュトロ、……ハーデス」
 すやすやと寝息をたてはじめたふたりの頬にキスをして、いつもの夜は締めくくられるのだった。


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